見かけるたびシャンプーしたくなる鳩 「むなげ」

見かけるたびシャンプーしたくなる鳩 「むなげ」 960 720 ゆらまき

いつも私が眺めている、15羽ほどで群れているハトたち。
そのグループから、いつも1メートル前後離れて、一歩進んでは二歩下がる不思議な動きの一羽がいる。

よく見ると、彼は歩いている途中に、ふと自分の鳩胸を見下ろして一瞬立ち止まる。かと思えば、まるで自分にドン引きしているように「えっ、ええっ!」のリズムで後ずさりする。
これをいつもワンセットにして歩いている。

彼の目線。その先。
彼の胸には、胸毛がない。
うずらの卵1個分はげている。
鳥は、ストレスが溜まると自分の毛を引っこ抜くことがあると聞く。
自分で毛引きをした?ケンカしたのか?オスのバトルにしても、胸毛だけ引っこ抜く戦法は個人的にどうかと思う。

あんまり印象的だったので、彼は
「むなげ」と呼ぶようになった。

口からこぼれるように出てきて、語感と雰囲気が妙にマッチした。

むなげは、胸毛以外に、いつもどこか毛並みがボサボサしている。毛づくろいが苦手なのかもしれない。
わたしは、この鳩は、ちょっと不器用な一匹狼で、一生独身なんだろうかなぁ。と思った。

最初に見かけた2月から、5月へ。
木の青々と茂るころ。彼の傷も癒え、だいぶ胸毛のない部分は小さくなってきた。

そんな暖かいある日。
むなげに、春が来た。
いつもの場所に見に行ったら、カップルになっていた。

スリムでなで肩、首の曲線が美しいメスの鳩と共歩き。2羽でお互い首をつつきあっては、熱烈にチュッチュしている。
すごく情熱的。後退りしない。
むなげは、もう胸毛のない自分の胸なんて見ていなかった。

クールな性格だと思っていたら、やるじゃん、むなげ!ラブラブじゃーん!

わたしはニコニコしながら見ていた。あのむなげが、幸せそうにしている。彼の人生をそっと見守っていて心が温まった瞬間だった。

1週間後。
1羽で歩き、時々二歩下がる彼を見かけた。
また独り者に戻っていた。
どうやら運命の相手ではなかったようだ。鳩の世界も人間のカップル同様、いろいろあるらしいとみた。

むなげは今日も、いつもの場所で一歩進んでは、二歩下がっている。

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